「簿記って勉強して意味あるの?」
「簿記検定っていらないんじゃない?」
「簿記検定持ってるけど役に立ったことないよ?」
簿記の勉強をしていても使う場所や活用する場所がなく、意味ないと感じる方は意外と多いと思います。
結論から申し上げると、簿記を取っても意味がない、役に立たないと感じる場面は非常に多いと言えます。
職種や業界によっては努力して簿記検定を取っても就職・転職時に評価されず、仕事でも活用したことがないという人もいます。
今回は簿記の知識がいらない、意味がないと言える状況や、将来的に経理業務がどのようになるかについて詳しく解説していきます。
本記事の筆者(シズ)
- 日商簿記1級を所持、資格の大原主催の簿記大会にて全国優勝
- 社会人として経理職・経営企画職を経験
- 応用情報技術者を所持しており、IT関連職の経験あり
本記事の内容
- 簿記がいらない、意味がない、役に立たない場面
- 経理じゃなければ簿記の知識は必要ないのか?
- AIがあれば簿記の勉強は必要ないのか?
簿記がいらない理由
簿記がいらない理由
- 仕事で使わない
- キャリアアップに必要ない
- 就職・転職時にあまり評価されない
- 会計事務所が経理業務を代行してくれる
- ITによって業務量が減っている
簿記は業界や職種によって高い評価を得られますが、建設業界の作業員やITエンジニアなどの技術職、研究開発職など、簿記にほとんど触れないお仕事も多くあります。
これらの仕事に携わる場合は簿記の知識があってもほどんど評価されず、仕事で活用する場面もほとんどありません。
簿記検定を持っている場合は採用担当者や上司などが「この人はなぜ簿記検定を取ったんだろう?」「本当は経理職に就きたかったのではないか?」と感じてしまう可能性もあります。
また、経理職のような事務職であっても、キャリアアップを狙った転職の際には資格よりも経験が評価される傾向にあり、簿記検定は知識の補完程度に見られる可能性が高いでしょう。
仮に難関資格である日商簿記1級を取得したとしても経験がないと評価されない可能性があり、多大な努力が報われないということもあります。
日商簿記1級レベルでは、海外に支店や支社を持つグローバル企業の連結決算の知識も習得でき、非常に高いレベルの知識を証明することが出来ますが、未経験者となるとどうしても他の人材に遅れをとってしまうでしょう。
さらに、会社によっては経理業務の多くを外部に委託している場合があり、会社内に1人だけしか経理担当がいない、ということもあります。
経理業務を委託をしている企業は中小企業に多く、会計事務所などが一手に引き受けていることもあります。
顧問税理士などに経理業務を丸投げしている会社も珍しくなく、社長が簿記を理解していないという会社も多く存在しています。
このような会社は簿記の知識を持っている人をそもそも必要としていないことがあり、就職・転職時にはほとんど評価されない可能性があります。
入社後も簿記に触れないことが多く、せっかく勉強した簿記の知識をほとんど使わないという人もいるでしょう。
逆にIT化が大きく進んでいる会社は業務の効率化が進んでおり、数人簿記に精通している人がいれば問題ないという場合もあります。
このような会社は経理周りを数人が一手に担当していることもあり、他の従業員が簿記を知らなくても問題なく仕事が回っていることがあります。
これらのように、会社の実態や仕事のポジションなどによって何年も簿記に関わらないという人が存在しており、そのような人から見れば「簿記はいらない」「簿記は役に立たない」と言えるでしょう。
なぜ簿記がいらないと言われているのか?
簿記がいらない根拠
- 最低限の知識は社員研修で学べる
- 簿記がいらない職種がある
- 昇進・昇格の評価に影響がない
- 簿記3級・2級の合格者が多い
- 簿記を取らないとできない仕事はない
- 簿記検定を持っていない経理部長やCFOがいる
- 簿記の知識を活かせていない人がいる
簿記がいらないとされる根拠は様々ですが、そのほとんどは簿記をほとんど活用したことがない人が言っている事があります。
簿記は比較的活用の場面が多い資格試験に分類されますが、それでも簿記の知識を使わない仕事もたくさんあります。
また、簿記の知識を使う仕事であっても新入社員研修などを通して必要な知識を習得するよう会社が指示するため、あえて自分から簿記検定の取得を目指すということをしなくて良い場合もあります。
簿記検定3級や2級は経理職などの事務職に就くと会社から勉強するよう推奨・指示されることが多いですが、現場作業員や研究者などのあまり簿記と関係がない人には縁のない話でしょう。
もちろんそのような職種の場合は昇進・昇格の話が出た際にも仕事の成果などがメインの評価指標となり、資格試験の取得などが天秤にかけられることはほぼないです。
仮に、簿記の知識が必要な職種であったとしても、簿記3級・2級レベルの資格は取得者も多く、昇格基準になったとしても、高い評価を獲得できるレベルとは言えないでしょう。
企業の大小を問わず、経理部長や経理担当役員、CFOなど、経理を統括・管理する立場の人でも簿記検定を持っていない場合も多く、そのような人を見ていると「本当に簿記検定を勉強しても将来的に役立つのか?」と疑問を感じると思います。
当然ながら経理の仕事を行う以上簿記の知識は必要ですが、仕事で成果を上げていれば順調に昇進・昇格を果たし、簿記検定を勉強する努力が対価に見合わないと感じる人も多いと思います。
また、一部の国家資格のように資格を取らないとできない仕事があるわけではないため、仕事で簿記検定が必ずしも必要かと言われればそれは「No」と言わざるを得ません。
簿記検定はあくまで一定の知識レベルの習得とそれを証明するための検定試験であるため、活用できなければ意味がありません。
活用できなければ「簿記は意味がない」「簿記は役に立たない」「簿記はいらない」と感じるのは当然だと思います。
経理は全てAIがやってくれる?
「将来的に事務仕事のほとんどはAIに取って代わる!」ということを聞いたことがあると思います。
確かにAIは素晴らしい技術であり、経理業務に限らず事務仕事の多くを自動化・効率化することができるでしょう。
この感覚は社会人として経理業務を経験した筆者としても同感です。
特にRPA等の技術を会計システムと組み合わせれば、会計システムだけでなくメールやエクセルなども連携・自動化・効率化でき、大きく業務量を削減できる余地があります。
しかし、経理業務の「全て」をAIに変えることは不可能でしょう。
本記事では経理業務を「AIで対応可能かどうか」という視点で3種類に分類し、それぞれ解説していきます。
AIが対応できるお仕事
AIが対応できる経理のお仕事
- 年次・月次の決算処理
- 会計処理の方法が一つしかない作業
- 前例があるトラブルに対応した費用の処理
- 過去の財務内容や経営成績の分析
- メール等で届いた請求書の処理
- 前例がある問合せ対応
- 予算と実績の乖離額算定
AIで対応できる仕事の多くは、PC上で完結するルーチン系が多いです。
仮にトラブルが起こったとしても、どのように対処すれば良いか社内にノウハウが蓄積されていればAIがそれを解析し、対処することができるでしょう。
また、過去のデータを分析する仕事やあらかじめ処理方法などが決められている仕事についても対応することが出来ます。
ここまで読んだ方の中には「AIはそんな単調な作業だけでなく、自分で考え、判断するのが真価じゃないのか?」と感じる方もいるでしょう。
では仮に機械学習システムを伝票処理に活用したとします。
機械学習とは?
- データを分析し、ルールやパターンを発見する方法
- 学習した成果に基づいて判断・予測することが出来る
- 教師あり学習、教師なし学習などの種類がある
まず最初に機械学習システムは過去のデータを参照し、「どの伝票がどのように処理されていて、その判断基準は伝票のどこにあるのか?」ということを学習しに行きます。
そのため、比較的高い頻度で発生する伝票については適切に処理する精度が高く、あまり発生しない伝票については精度が低い機械学習システムが出来上がります。
しかし、ビジネスの世界では80%の確率で正解を導き出すシステムに全てを任せることはしません。
なぜなら、仕事は常に100%適切に処理することが求められるからです。
この機械学習システムを活用する場合はこのシステムが対応する伝票や仕訳が適切に処理されているか監視・修正する人材が必要であり、業務効率化が出来ても完全に自動化する事は出来ません。
データが蓄積すれば精度は上がっていきますが、そもそも頻度が少ない伝票や新しい伝票などはどうしても会社として任せられるほどの精度に達することは出来ません。
そもそも、この機械学習システムを開発する費用と時間、業界特有の会計処理や会計手法の設定、このシステムの運営を担当する社員の育成コストなどが経理部員の給料と比べてどのくらい安いか?という点が重要です。
システム自体は安くても、既存のシステムからの移行費用や機械学習の分野に明るい人材の人件費が高い場合は意味がありません。
これらの要件をクリアし、資金力がない中小企業までAIが浸透するのは相当の時間が必要であるため、どうしてもAIが処理出来ない仕事は発生すると考えられます。
ある程度AIが対応できる経理のお仕事
ある程度AIが対応できる経理のお仕事
- 買収する企業のブランド価値や協業価値の算定
- 過去のデータや自社の現状等を加味した今後の長期経営計画の立案
- 年次予算における実績との差異分析と要因解析
- 部署やグループ企業の変更・新設・廃止により発生する費用の予測
- 新しい会計基準への対応業務
経理の仕事の中でも、年次予算や長期経営計画の作成などの仕事はその一部をAIが担うことが出来ます。
しかし、これらの仕事は過去のデータだけでなく、会社の経営方針や業界の慣習・立ち位置、自社の強みや社内の人材の偏りなど、なかなか端的に言い表せない事項が絡み合ってきます。
この状況は部署やグループ企業の改廃、企業買収におけるブランド価値・協業価値の算出などにも言えることであり、一部の仕事をAIが対応する事はできるが、それだけでは経営層を納得させる資料を作る事は出来ません。
どうしても人間が様々な考え方を模索し、時には世の中に出ていない算定方法を編み出し、なんとか数字を作りに行く仕事もあります。
AIは過去のデータやネットなどの外部に蓄積されているデータを活用・応用し、社内の案件に対応・助言する事は出来ますが、新しい案件や過去のデータが無いないことに挑戦するという仕事についてはどうしても不得意と言わざるを得ません。
これらの柔軟な対応力・考え抜く思考力が問われる仕事はAIに代替出来ず、今後も人間の仕事として残っていくと考えられるでしょう。
Aiが対応出来ない経理のお仕事
AIが対応出来ない経理のお仕事
- 特殊要因における年次・月次決算の修正処理
- 監査法人や税理士法人の監査業務対応
- 前例がないトラブルにおける費用精算・帳簿修正処理
- 企業の実態・方針に適用した会計手法の判断
- 複数の会計処理方法がある案件の対応
- 銀行への借入交渉業務
- 国や地方自治体等への補助金申請業務
- 投資家への説明業務
- 新事業への挑戦により発生する費用額・投資額の算定
- 郵便で届いた請求書の処理
- 前例がない問合せ対応
- 経営会議などでの議論
- 会議体での年次・月次報告及び質問回答
経理の仕事の中にもAIが対応出来ない仕事は多く存在しています。
代表的なものはどうしても人の手を介する必要がある仕事や過去のデータが使えない仕事になります。
具体的には紙媒体の請求書の処理や新事業への挑戦に関連する費用の試算、銀行の借入交渉業務などです。
これらの事項をAIで対応する場合は、自社内だけで解決する問題ではなくなり、銀行や取引先企業などの利害関係者がAIに対応できる体制を構築・運用する必要があります。
当然、国や地方自治体への補助金申請、投資家への株主総会での説明、監査法人や税理士法人の監査対応業務などにも同じことが言えます。
いずれAIを搭載したロボットなどがこれらの仕事を担う可能性もありますが、いずれも質疑応答が伴う高度な仕事に分類されるため、AIの技術がかなり向上しないと対応することは難しいでしょう。
数十年先まで考えるのであれば、確かにこれらの仕事も人間が担う部分は減っていると考えられますが、0になることは考えにくいでしょう。
むしろAIを管理する立場の人間に簿記の知識が必要になってきます。
いずれ簿記の知識+ITの知識を持っている人材が経理職として配置される未来が来るかもしれませんね。
経理でなければ簿記はいらない?
簿記の知識が必要なお仕事
- 飲食店や小売店の店長
- 研究所の所長
- 営業部や製造部などの部長
- 総務部や人事部などの管理部門の部長
- 内部監査や内部統制などの内部管理部門
- 企業の経営層
簿記を活用できるお仕事として真っ先に上がるのは「経理職」でしょう。
経理職は会社の財務内容や経営成績を計算し、経営層へ報告するお仕事などがあり、それには当然ながら簿記の知識が必要です。
では、経理職以外のお仕事では簿記の知識は必要ないのでしょうか?
もし、工事現場の作業員や製造工程の工員などであればあまり必要ないかもしれません。
しかし、その方々が昇進・昇格して管理職になると部署の経費や予算等を管理し、どこにどの程度お金を使うか判断しなければなりません。
その管理職が簿記の知識に乏しく、会計面で会社にどのような影響を与えるか分かっていない人に対して、経営層が大きな裁量権を与えるでしょうか?
この話は飲食店の店長や研究所の所長、営業部の部長などにも言えます。
- 顧客へ提案するサービスの採算が取れるか?
- 本当にこの支店を無くしてしまって良いか?
- どの製品を伸ばせば利益を上げられるか?
- 新しい製品の原価はいくらになりそうか?
- このお店はどうすれば黒字になるか?
- 製品を作りすぎると会社にどのような影響があるのか?
ここで挙げたのはほんの一例ですが、これらの仕事は一般的に経理職以外の人が主担当として考えることであり、いずれも簿記の知識が関わってきます。
また、これらの仕事には「失敗すると会社が傾く恐れがある」という点も共通しています。
もし、上記の内容を算定・判断する人が「経理じゃないから簿記の知識はなくて良い!」という考えの持ち主であったら、周りの従業員や同僚はどのように感じるでしょうか。
「この会社倒産するかもしれない…」「我々の給料が払われないかもしれない…」「私たちが一生懸命稼いだお金をそんなことに使うのか…」という思いが駆け巡るかもしれません。
筆者の周りでも簿記検定を持っていない管理職がいますが、いずれも検定を取得せずとも自分で簿記の勉強をして仕事に活かしています。
簿記検定まで取る必要はないかもしれませんが、簿記の知識を習得しておくと長期的に見て役に立つ場面が来るでしょう。
簿記を活かすためには
- 経理職などの事務職 → 日商簿記2級
- 大手企業で輝く人材を目指す → 日商簿記1級
- 税理士を目指す → 税理士試験
- 公認会計士を目指す → 公認会計士試験
簿記検定に限らず、資格はそれを活かせる場がないと意味がありません。
簿記検定は他の資格と比べると活かすことができる仕事や場面が多い恵まれた資格です。
簿記を活用する仕事によって必要とされる知識レベルが異なりますが、簿記の知識を武器として仕事をしたい場合は日商簿記2級以上が望ましいでしょう。
一般的に、経理職などの事務職に就きたい場合は日商簿記2級、大手企業でグループ会社の決算などに関わっていきたい場合は日商簿記1級、税理士や公認会計士などを目指したい場合はそれぞれの国家試験に合格する必要があります。
最近は試験制度が改正され、日商簿記2級に連結決算の分野が追加されたため、さらに資格の価値が上がりました。
もし、簿記検定を勉強したいと考えている人がいるのであれば、まずは日商簿記3級から取得を目指し、2級へと進みましょう。
時間がある方は3級と2級のダブル合格を狙っても良いかもしれません。
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もし「簿記の専門家」として仕事をしていきたい場合は税理士や公認会計士を目指しましょう。
一般的には日商簿記1級を持っていると「会計のスペシャリスト」と言われますが、あくまで検定試験であるため、1級を持っている人だけが出来る仕事というのはありません。(税理士や公認会計士は独占業務があります)
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日商簿記1級を取得した場合について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
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まとめ
今回は簿記や簿記検定が意味ない、役に立たない、いらないと思える場面について解説してきました。
何度も申し上げますが、簿記検定も資格試験である以上、活用できる場面と出来ない場面があります。
AIに仕事を奪われると言われていますが、今度はAIを管理するポジションの人に簿記の知識が必要となってきます。
将来的にAIが経理を担当する場合は、AIの性能に対する要件が財務省などから設定されるかもしれませんね。
本記事のまとめ
- 簿記がいらない場面は非常に多い
- 経理職でなくても簿記の知識が必要になる場面はある
- 経理の仕事がAIに代替されると技術者に簿記の知識が必要になる